アクアマリンの秘密【外伝】
* * *

パーティーとやらが終わり、ようやく一人になれた。
ある雪の日に朝霧紫紀が外を眺めていた場所だ。


「……。」


やはり慣れない。上手く笑えなどしない。
それなのに、向けられる姫君の笑顔はあまりに眩しくて、消されてしまいそうになる。
…自分が闇を纏っているのは分かっている。
だからこそその眩しさはかえって痛い。


「…はぁ。」


思わず溜め息が零れた。
楽しくなかったわけではないのに、〝楽しい〟と伝えられないことがもどかしい。





「疲れたみたいだな。」

「…?」


振り返った先には紫の長髪。
無表情さでは私と大して変わらない男が立っていた。


「…楽しめなかったか?」

「そうではない。
…私が〝楽しむ〟ということに慣れていないだけだ。」

「それもそうだな。」


少しだけ表情を柔らかくしてそう言った。
そんな朝霧紫紀は…随分と変わった。

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