『若恋』榊の恋【完】
異変


元太や榊原がいた屋敷から戻ってくる途中で、若から連絡が入った。

若が他人を介さないで直接電話を掛けてくることは珍しい。


「何かありましたか?」



思わず出た声音にひかるも心配そうに見つめている。

「お義兄さん?」

「ええ」

ただならぬ気配が電話口からする。

何かが起こったらしい。

電話の向こうで若が慌てている。



「どうかしたんですか?」

若の身に何が。

「落ち着いてください」


電話で話が遠くてよくわからない。
ただ若がひとりでりおさんの名前を連呼している。


「若!」

「おねえちゃんに何かあったの?」


りおさんの出産はもう少し先のはずだ。
お腹の御子に何かがあったのかもしれない。


「若、落ち着いてください!」

思わず叫んでいた。




向こうで息を詰める気配がした。

「若、仁は傍にいますか?」

若では話しにならない。

冷静に話ができる仁か毅がいてくれれば。


< 398 / 440 >

この作品をシェア

pagetop