天体観測
天体観測
事件は一見収束に向かったように見えたけれど、そうじゃなかった。むしろ、ある意味でここからが本番だった。問題が派手なだけに、事後処理も派手にならざるをえない。でも、これもわかっていたことだけど。

マスコミの取材がもの凄かった。何処から情報が漏れたのかわからないけれど、連日家の前に暇そうなリポーターが立っていた。御幸さんが言ったように「府の英雄」という肩書きを授けられた。実は、僕は大阪府に雇われた秘密探偵だっただの、被選挙権を得たら、知事選に立候補するだのと、憶測のかぎりを尽くしたスポーツ新聞もあった。

僕は結局、東京の大学には行かなかった。大阪の大学で、シェイクスピアの研究をしている。入学した当初は、違う大学のミス研からも誘われた。けれど、僕はそれを当然のごとく断り続けた。代わりに、ジャズ愛好会と、第三天文部と立ち上げた。

恵美は、介護の学校ではなく、看護の学校に行った。一人でも多くの命と出会いたいそうだ。事件後は、一躍悲劇のヒロインに祭り上げられて、その報道があるたびに泣いていたけれど、今はそのことを笑って話している。

雨宮は、無事に京都の大学に合格した。たしか、英文学科だったと思う。僕個人は、卒業して以来、彼女とは会っていない。僕は僕で忙しく、彼女は彼女なりに思うところがあるのだろう。恵美からの情報によれば、落ち込んだ様子もなく、元気にやっているそうだ。

マスターは時間外営業、プラネタリウムの無断使用等が影響してHIROを辞めた。僕としては辞めたことよりも、雇われていたことに驚いた。今は、母さんと二人で、夏のバカンスを楽しんでいる。

僕が一番驚いたのは、父さんのことだ。父さんは、隆弘の死の責任を取る形で、地方の分院に飛ばされた。つまり、村岡の罪も、軽くなったわけだ。父さんとは、引っ越しの手伝いをして以来会っていないけれど、忘れた頃に手紙をよこしてくる。
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