蜜色オフィス


ニコニコしていた福田くんが、私の背後に何かを見つけて黙る。
“あ、やべ”って顔してるから、どうしたのかと思って見てると、すぐ後ろから宮坂の声が聞こえた。


「月曜日の朝から、先輩に飲みの誘いか?
いい度胸だな」
「いやいやいや、飲み会っていうよりも、お疲れ会みたいな感じで、」
「福田」
「……なんですか、これ」


隣に並んだ宮坂が渡したのは、車のキーみたいだった。
プレートのキーホルダーを見る限り、どうやら営業車みたいだけど……。


「地下に止めてあるシルバーのセダン、ガソリンがないからこれからスタンド行って入れておけ」
「えっ、今からですか?」
「さっき社長に会った時に頼まれたんだ。
俺が昼休みにでも行こうと思ってたけど、丁度いい」
「えー、」
「文句言うなら社長に言うと思って言えよ」
「……第二営業課の福田、喜んで行かせて頂きます」


諦めたのか、福田くんがため息をつきながら背中を向ける。
その背中は心底イヤそう。

……けど、反省はしてなさそうだ。


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