解ける螺旋

 五年後の君

記憶は曖昧でも身体が覚えてるってのはありがたい。
運転し出すと手が勝手にウィンカーを操作する。
初めて運転したはずの高級車のシートが馴染む。
そうして俺は大して困る事はなく、病院からそう離れていないマンションに足を踏み入れた。


シャワーを浴びて着替えをしたら、奪い返しに行こう。
俺はそう決意していた。


過去を変える必要はない。
そうじゃなくて今、この世界で。
まだ本当に結婚した訳ではないんだから、なんとかなるかもしれない。
同じ世界に生きてるんだから、きっと何とか出来る。


――なんとか、って。
俺は何をどうしたいんだ。


自分で冷静にそう思うのに、俺の心は掻き乱されるだけで、全く一貫してくれない。
まるで自分が二人いるみたいだと思った。
自分でも自分を突き動かす物が何なのか、はっきりと理解出来ないまま。


ただ気持ちだけが焦って先走る。
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