「兼続、あそこに居る」


――越後から馬を飛ばし、乗り捨ててはまた馬を飛ばし…そして尾張にようやくたどり着いた男が居る。


「おお、あちらの姫が殿の寵姫となられるお方ですか!…して、何をしておられるので?」


兼続と呼ばれた男は、馬上から“殿”と呼ばれた若き男が見つめている視線の先を見た。


「どうだろう、寝ているのかもしれないね」


そこにはとびきりの軍馬が脚を畳んでは座り、その傍らに、草花の上にうつ伏せになっている髪の短い女子の姿が在った。


「兼続、君の友人より先にあいさつに行っては駄目かな?」


…身分の高そうなその男は、兼続に笑いかけた。


ううむ、と唸りながら中性的で儚い印象のあるその男に元気のある返事を兼続がすると共に馬を翻させる。


「では拙者が三成に先に挨拶して参りましょう。殿はいつものようにご自由に」


――兼続が去るのを見送りながら…上杉謙信は、女子に近付く。


傍に居た軍馬が気配に気づいて荒々しく立ち上がった。


謙信が乗っていた馬がその迫力で後ずさりをしたので、ひらりと馬から降りては手綱を絞る。


「落ち着くんだ、何もしないよ」


どこか間延びのした声に気を削がれたのか、その軍馬はおとなしくなる。


「もおクロちゃん、何してるの?眠たいんだから静かに……ってあれ?」


女子…もとい桃と、謙信の瞳が交差した。


「いい天気だね」


瞳を瞬かせて茫然としている女子の隣に謙信は腰を下ろす。


「どこから来たのかな?名は?」


「え?えーと…桃…」


「桃か。私の姉上の名と同じだ。これも何かの縁なのかな」


穏やかな笑みで笑いかけると、ぼーっとなってしまった女子の肩に謙信は手をかけた。



「私は上杉謙信。越後の主だ。姫、君を迎えに来たんだよ」



――言われた意味がよくわかっていないのか、まだ自分を見つめたままぼーっとなっている桃の耳元で謙信は囁いた。


「私の越後へ共に行こう。君のことは全てわかっている。…違う世界から来たんでしょ?」


桃は耳を疑った。


そして、謙信に恋をしてしまった自分に気がついた。

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