<*ダルド視点>



異界の娘を案内した部屋付きの侍女の鈴が鳴ったという報告を聞き、駆け出した。
走りながらセシーとミー・メイを離宮から連れてくるように指示をだす。
ミー・メイの術式を使えばすぐに合流できるはずだ。

黒い髪・黒い瞳の小柄な娘だった。
ミー・メイを叱責した私になにやら言ってきた勝気な娘。
だがよく、見ればか細い身体は小刻みに震えていた。
マントを外し、急いでかけた。
多数の眼が彼女に注がれていた。
好奇の眼差し。
それと好奇以上の困惑と恐怖。
異界からの生物……それを察知して<監視者>がこの国に現れるには確実なのだから。

ミー・メイが異世界から害の無い無機物を複雑な陣を用いずに‘落とす‘術式を考案し、私は20歳の生誕祝いの余興としてそれを希望した。
異界の物はとても珍しく、貴重だ。王族といえど眼にすることは少ない。
幼い時に青の竜帝様に見せていただいたことがあったが、とても興味深いものだった。

掌にのる程度の大きさをした立方体。
色とりどりの小さな四角の面の集合体で、前後左右に面を移動させることができた。
青の竜帝様が仰るには異界の玩具らしいと……。

=こうすると面の色が揃う。全部の面の色を合わせるのだと思うんだが……俺は2面までしか揃わん。いらいらしてやってられんっ。

私に玩具を放り投げられたので慌てて受け取り、たずねた。

=私も挑戦してもいいですか?
=かまわんぞ。ダルドは親父に似ず賢いからな。

かなり時間をかけたが揃ったのは3面だった。竜帝様は褒めて下さったが、悔しかった。

=俺よりうまいな。ヴェルはあっという間に全面揃えやがって、つまらんかった。
=ヴェル? 竜族の方ですか?

竜帝様は私の頭を撫でながら教えて下さったが、私は質問したことを後悔した。

=ついさっきまで此処に来ていたのさ。ヴェル……ヴェルヴァイドってのは【古の白】って意味だ。<監視者>の通り名だがお前は使うな。
=は、はい!

ぞっとした。
あの<監視者>がさっきまでいたなんて。
恐ろしくて……歯が音を立てた。
震えてしまった私に竜帝様は苦笑しながら仰った。

=あれを恐れる心が世界に秩序をもたらす。恐れ、敬い、頭を垂れろ!さあ、あっちで茶にしよう。俺様が作ったアダのタルトは絶品だぞ!

あの後、タルトを食べたはずなのに。
味の記憶は私の中に、全く残っていない。



 
幼い頃から徹底的に教えられた礼儀作法も頭から消え乱暴に扉を開け放ち、踏み込んだ。
そこには黒い髪の娘が居た。
寝台の上でこちらを見ている。
黒い眼・髪。見慣れぬ衣服。
確かに昨夜の異界の娘だった。
そして、彼女を私の視界から隠すように白い竜が……。
白い竜はこの世で唯一の存在。
 
『何故、生きている……<監視者>?』

殺されるはずの娘と。
娘を殺すはずの白い竜が、共に居た。


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