犬と猫…ときどき、君

「なに、お前」

「は? 何が?」

「その球、なんだっつってんだよっ!!」

「ドロップ」

「いやいや、違うぞ!! そーじゃねぇぞ!!」


陽だまりのグラウンドのど真ん中。

申請の通った“ソフトボール愛好会”の始動日は、やっと温かくなった、ある春の日だった。

せっかく着込んだ、一年の教養の体育の授業以来のジャージ。


それなのに。


「何で? 普通に投げてるじゃん!」


無理やり――多分春希の企みでピッチャーを任された私は、何故か同じチームの春希と乱闘寸前だった。


「ちょっと胡桃、城戸!! 同じチームでケンカしないでよっ!!」

「マコー! だって春希がイチャモンつけてくる! 真面目にやってるのにー……」

「真面目にやり過ぎだ! お前、何者だよ!!」


せっかく頑張ってピッチャーの仕事を全うしているのに、春希に文句をつけられた私は唇を尖らせる。

すると春希は、それにまた眉根を寄せて。


「“何者”って何よ」

「その投げ方なんだよ!!」

「ウィンドミル」


一体何が気に入らないのか、未だに食って掛かってくる春希がちょっと面倒になってきた頃、

「芹沢、ソフトやってたのー?」

バッターボックスでバットをプラプラさせながら、のんびりとした口調で、篠崎君が声をかけてきた。


「あー、うん。中高と」

「へぇー! もしかして、ピッチャー?」

「うん」


それに「そっかぁー」なんて感心している篠崎君を他所に、

「聞いてねぇぞ、んな事!!」

春希がうるさい。


「もー、うるさいなぁ。何でそんな事を一々言わないといけないのー?」

「一応言っとけよー。俺の監督不行き届きになるだろ。その豪腕で誰か怪我とかしたらよー」


怪我だとー……?


「私、そんなヘボピッチャーじゃないもん」

「だなー。ははは。すげぇー球走ってますもんねー」

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