テノヒラノネツ
2年前、千華の兄が結婚して同居することになったので千華は家を出た。
出ると今度は、結婚はまだかと母親がうるさいのだ。
しかし、最近は兄嫁が出産間近なので結婚はどうだ? の攻撃は幾分回避できている。

「そーなんだー」
「ま、近所っていっても、古賀君は、シーズン中は日本国内を転々として飛び回ってる人だし、ブルーオーシャンズは本拠地が九州だから、玄関先でばったり会うなんてことはないのよ」
「まあねー、それはそうだよね。まあいいわ。ともかくメールはあたしが返信しておくから」
「はい?」
「あたしだってみんなに逢いたいし」
「じゃあ、美夏ちゃんだけ、行けばいいでしょ?」
「だめ。あたし独りじゃ心細いの」

(心臓に毛が生えてるくせに……)

千華が古賀と幼馴染だった事実を知る数少ない親友は、元西南大付属高の野球部に意中の彼がいるらしい。だけど告白してない。
何時もチャンスを逃している。
きっとこうして年に一度か二度会う、この同窓会もどきのメンバーに、その片想いの彼がいるのだ。

「いいわね! じゃ!」

プツ。っと、向こうの電話が一方的に切られて、千華は呆然と立ち尽くし、浴槽からお湯の漏れる音の方が響いてきたので、慌てて浴室へ駆込んだ。
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