冬うらら 1.5

01/11 Tue.-4

●16
 あっ、あっ、あっ。

 背中にカイトの胸。

 メイは、ガッチガチになったまま、後ろから彼に抱きしめられていた。

 湯の熱さとはまったく違う熱が、身体中をかけめぐる。

 別に、変なことなんか何もない。

 二人は夫婦だし、一緒に暮らしてもいるし、彼女だってすごくカイトのことを好きなのだ。

 だから、抱きしめられるとドキドキして苦しいけれども、幸せなことのハズだった。

 しかし。

 この現状は、あまりにもショッキングで。

 だから、心と身体が彼女に無断で驚き続けるのだ。

 背中にいるのは、カイトなのである。

 信用できる人なのだから、驚く必要なんて何もないはずなのに。

 衣服を着ていないというのは―― こんなにも頼りないものなのか。

「な…何も、しねぇ」

 そんな驚きが伝わってしまったのだろう。

 悪いことをしたかのように、彼の腕が逃げていこうとする。

 まるで、ホールドアップだ。

 無害であることを証明するような態度。

 メイがあんなに驚いたから、悪いことをしたと思ったのだろう。

 そんな!

 混乱しながらも、それは違うのだと思った。

 カイトは、何一つ悪いことをしているワケではない。

 ただ恥ずかしくて、彼女が自分の心の制御をうまく出来ないだけだった。

 だから、彼が罪悪感を覚えることなんてない。

 うまくそれを伝えたかった。

「あの…その……」

 言葉は―― 見つからない。

 どきどきした心臓が、声の出る部分をふさいでいるようなカンジだ。

 けれども、腕を動かすことが出来た。

 カイトの片腕を捕まえて、自分の胸の方に回そうとする。

 こうすれば、どういう気持ちかは伝えられると思ったのだ。

 不意に、その腕に力がこもった。

 通じたのだ。

 彼は、もう片方の腕も持ち出して、メイをぎゅっとしてくれたのである。

 安堵と恥ずかしさと嬉しさが、ぱっと彼女の身体の中まで滑り込む。

 一体、どれに一番スポットライトをあてていいのか、分からないくらいだった。
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