龍とわたしと裏庭で⑤【バレンタイン編】
誰かさんの羊

圭吾さんに会える 会える 会える


羽竜家に戻る日、わたしの頭の中では『メリーさんの羊』のメロディーがぐるぐる回っていた。

早く会いたいのに、なんと! 町に入る前の道路で立ち往生している車と出くわした。

寒そうに車の傍らに立っていたのは――


「常盤さん?」


常盤道隆さんは圭吾さんの知人で、代議士であるお父さんの秘書をしている。

まあ知人といっても、圭吾さんとそれほど仲がいい訳じゃないけど。


「知り合いか?」

親父が車を止めて窓を開けた。

「お困りですか?」


「ええ、ガス欠でもないのに急に動かなくなりまして。レッカー車はもう呼んだのですが」

「寒いでしょう。乗ってお待ちになりませんか?」


常盤さんは少しためらっているようだった。


「娘がお知り合いだと申していますが」


「娘さん?」

常盤さんは体を屈めて助手席を覗き込んだ。

「君は、羽竜家の」


「ごきげんよう。風邪をひく前にどうぞ」

『ごきげんよう』の挨拶に親父がむせたのは無視!

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