「すみません──よろしくお願いします」

拓馬からは何の説明もないのでよくわからないけれど、一応頭を下げておく。


「ん、了解。綺麗にしてあげるからね」

翔さんという美容師の人は、私の頭から爪先まで一通り眺めたあと、私へ向けて微笑んだ。


「じゃあ、俺は用事済ませてきますんで。奈雪のことお願いします」


拓馬はずっと一緒にいてくれるわけではないらしく。一度こちらへ視線を投げただけで、すぐにドアの向こうへ消えてしまった。


「奈雪ちゃん。どうぞこちらへ」


さりげなく名前で呼ばれた私は、王子様さながらのエスコートで中央の鏡の前の席へ案内される。

王子とはいっても真面目なタイプではなく、遊び慣れている雰囲気の王子様だ。


席に座ると、地味な自分と華やかな翔さんが大きな鏡に映っていた。

彼の整った外見に見惚れているとは思われたくないがために、あまり彼のことを見ないよう努める。


「奈雪ちゃんって。ホントに拓馬の彼女じゃないの?」

ケープをかけ、私の髪をブラシでときながら、翔さんが再度確認してきた。


「違いますけど……どうしてですか?」

「奈雪ちゃんは、拓馬好みのナチュラル系だからさ」


嘘……。

私は唖然として鏡の中の翔さんを見つめた。

拓馬は、もっと化粧の濃い美人が好きと言っていたし。
地味地味、言われ放題なのに。

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