桜の花びらがひらひら舞い降りる時期、織田夏海《おだなつみ》は成城の一等地にある豪邸を訪れていた。

正門には立派な表札が掛かり、『一条』と書かれてある。この邸の主、一条実光《いちじょうさねみつ》は、夏海が勤める一条物産の社長であり、年商1兆円と言われる一条グループの社長でもあった。



ちょうど1年前、夏海は入社式で新入社員代表となり謝辞を述べた。
入社試験が最優秀だった証である。
花形とも言える第1事業部を希望したが、なんと配属先は秘書課。外国語は苦手ではないが、出身が法学部ということもあり、秘書検定を取ってはいなかった。

彼女が持っている資格は司法書士と行政書士のふたつ。

本来は司法試験を受けて弁護士を目指す予定だったが、残念ながら不合格となってしまい、親に負担を掛けるのが嫌で就職を決めたのだった。


やるからには頑張って昇進を目指そうと心に決めたものの、一条物産の秘書課は総合職扱いではない。
専門職採用の秘書は退職まで秘書課にいることが多く、役員秘書としてサポートに徹すると聞き、夏海は一気に消沈してしまう。


しかも、彼女がつくことになったのは、親の七光りで常務になったと言われる『女好きの馬鹿息子』一条匡《いちじょうただし》。


本来、噂は噂と気にしない夏海だが、彼に限っては事実であった。


匡は、夏海の先輩に当たる第1秘書と明らかに男女の関係だったのだ。


その方面には詳しくない夏海だが、忘れ物をして秘書室に取りに戻ったとき、奥の常務室から熱愛中の男女の声を耳にする。
まるで聞かれることなど何とも思っていないような先輩秘書の喘ぎ声に、夏海は仰天した。

しかもその数日後、この先輩秘書と受付女性が社内でつかみ合いの大喧嘩を始め……。
原因は言わずもがなだ。

大勢の来客が目にする1階エントランスホールでの不祥事は、社長の耳にも届いてしまい、匡も大目玉を喰らったという。


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