2週間後、夏海は六本木ヒルズにある、一条・如月法律事務所の入り口に立っていた。

自分と子供を捨てた聡の下で働くのには抵抗があった。

しかも、聡はよほど子供を産んだことを怒っているらしく、裁判にすると言って聞かない。
鑑定などしては、聡の子供だと証明されるのは明らかだ。
だがそれは、他の可能性を否定するものではなかった。

男として最低で人格に問題があっても、彼は一流の弁護士である。生活環境や財産を盾に、親権を奪われないとも限らない。

それだけは阻止しなければならない。

今の夏海に、悠は生きる全てなのだから――。



   ☆



3年前の5月、聡から社長に話すと言われて夏海は安堵していた。

実を言えば、聡とそうなってから1度も来ないまま、2週間も遅れていたのだ。
次に聡と会える日と心待ちにして、夏海は検査薬でチェックを済ませた。

“陽性”の結果は未婚女性にとって不安の方が大きい。

だが、このときの夏海は聡の愛を欠片も疑ってはいなかった。

そして意外にも早く夏海の部屋を訪れた聡に、彼女は思い切って告白する。


『あの……あの、ね。赤ちゃん、できたみたい。最初の、ときの……あの』


夏海は俯いたまま、多分耳まで真っ赤だったと思う。
彼も、瞳を輝かせて喜んでくれるとばかり思っていた。

でも、喜びの声は何も聞こえて来ず……次第に不安が募ってくる。


『ねぇ、何とか言って……聡さん』


そして聡が口にしたのは、


『――誰の……誰の子だ?』

『え?』

『確かに、あのときは不用意に抱いた。私の可能性もあるだろう。だが、ほかに候補は何人いるんだ? 匡だけじゃないんだろう?』


何を言われているのかわからなかった。

『愛してる』と言って抱き締めてくれたのは、わずか2日前のことである。


『私には……あなただけです。だってあのときが』

『生理中だったのか? 上手く騙せたものだ。少し考えればわかるはずだった。経験のない娘があんな場所で、しかも初対面の男に身体を許すはずがない。私と匡と、どちらが有利か天秤にでも掛けていたつもりか?』


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