サルビア
生活

妻の紗江が死んでからすでに八年の歳月が過ぎていた。
紗江は私にとって太陽だった、暗い闇を照らしてくれた光。
その存在はもう消えているというのに、まだ実感はわかない。
家の玄関を開ければ紗江があの優しい笑みを浮かべ近寄り、近所であった出来事や他愛もない話をしてくる。
そんなごく普通の生活が、私にとってなによりの幸せでかけがえのないものであったのだ。

「パパ!」
「…どうした、光」
「ボーっとしてるよ、ひかりの作ったごはんまずい?」
幼く心配そうな表情を浮かべる光に対し私は作った笑みをうかべながら曖昧に返事を返す。
すると光はまた安心したように子供らしい笑みを浮かべた。
「…(紗江…)」

光の笑顔は、紗江と重なるもので私は内心複雑な気持ちに入り混じれている。
親族の中には、「光ちゃんのせいで紗江ちゃんが死んでしまった」と言う者もいて私自身そう思ってしまう時すらあった。

光のせいで紗江は死んだ?ならなぜ今自分は光を育てているのだろう?
光は紗江の残した命。 二人で苦労し授かった命。

そんな中途半端な気持ちで育てている自分に何よりも嫌気がさしていたのだ。

「あっ、そうだパパ!」
「なんだ?」
「こんどね、参観日あるんだ!だからパパ来てくれるでしょ?」
「あぁ…仕事が休めそうだったら行くよ」
「うん!」

紗江はどう思っているのだろうか。
中途半端な私に腹を立てているかもしれないし、あきれているかもしれない。

「ごちそうさま、おいしかったよ」
「やったぁ、ひかり明日も頑張るね!」
「あぁ」

でも、光のこの笑顔はとても大好きだった。
矛盾に押しつぶされそうな中、唯一の癒しを与えてくれた。

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