「電話は一切取り次がないで。どこからかかったか、あと、件数だけ教えてちょうだいね」


美月は予約を入れていた暁月城ホテルのフロント係にそのことを頼み、部屋に向かった。

そこはなんの変哲もないシングルルームだ。悠が知ればきっと、金に困っているなら自分が……と言い始めるだろう。


だが、美月にすれば普通のこと。

身内に大企業のオーナーや資産家は多いが、彼女は父が勤める会社の社宅で慎ましく暮らしてきた。父が再婚するまではふたりで。新しい母も贅沢を好む人ではなく、一家は生活に困らない程度の収入に満足してきた。

それは美月にとんでもない遺産が転がり込んでからも同じだ。

美月は結婚後、自ら動かせるほとんどの遺産を福祉団体に寄付している。その中には彼女が働くボストン・ガールズ・シェルターもあった。本音を言えば、日本で同じ職に就きたい。しかし、桐生の力が及ぶ場所は危険と言われ、彼女はボストンで働き続けている。


美月は部屋に入るなりハイヒールを脱ぎ捨てた。そしてジャケットも脱ぐと、クローゼットからハンガーを取り出してかける。

ブラウス越しにも綺麗な胸元が浮かび上がり、タイトスカートは魅惑的なラインを描いていた。決して、悠に話したように隠したくなるようなボディラインではない。

華やかに装いたいと思いつつ、美月は女性的な部分を見せていくことに不安を抱いていた。


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