七年ぶりの日本、そして、一条美月として入国したのは初めてのこと。

実家は東京にある。とはいえ、できる限り、目立ちたくはない。彼女は実家には戻らず、O市に住むと聞いた“夫”のもとに直行した。
 

美月が悠と結婚したのは七年前のこと。

悠はビジネススクールに通い、美月はハイスクールに入学したばかりだった。当時悠は二十三歳、美月にいたってはなんと十六歳。彼女にはどうしても結婚しなくてはならない事情があり、悠はそれに応じてくれた貴重な人だ。

結婚を偽りにしないため、悠がビジネススクールを卒業し、日本に帰国するまでの一年間を一緒に暮らした。実際には、夫婦とは呼べない関係だったが、美月の心に思い描く悠は、紳士的で誠実な男性だった。


悠と直接顔を合わせるのは約六年ぶりだ。

一八〇センチを超える長身の悠は、アメリカ人に混じっても決して見劣りするものではなかった。フリークライミングが好きで、ボストンではインドアクライミングのクラブに入っていたくらいだ。五メートルくらいの岩壁や人工壁をロープも使わずにスイスイと登っていた。美月は自分で登ることはしなかったが、そんな悠の姿を見るのは好きだった。

今もやっているのかどうかわからない。だが、体格は以前と変わらず引き締まって見える。容貌も六年前とあまり変わらない。当時から三十歳近くに見られていたが、今もそんな感じだ。

ただ、女性の存在は覚悟していたものの、目の当たりにすると気分のいいものではなかった。


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