シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

・予感

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池袋から首都高に乗ったボンドカー。

もう外は真っ暗で、流れる灯が目に痛い。


運転しているのは玲くんではなく、クマ男。


女泣かせの色男ジェームスボンドの流麗な車を、毛むくじゃらな大柄クマ男が運転するのは、なんというミスマッチな光景だろう。


ああ…ボンドカーが泣いている。

恨めしいと泣いている。


しかし後ろから見ても、迫力ある体毛だ。

腕まくりした腕からふさふさ、ふさふさ。


何だか気持ちよさそうだ。

こんなにふさふさ…本物なんだろうか。


桜ちゃんみたいに"ツケ毛"ではないんだろうか。

顔にあるのも…ヒゲという種類の体毛という名のツケ毛ではないだろうか。

実はマジックテープでぴりって剥がせられるんじゃ?


気になったら止まらない。


あれは本物か、偽物か。


堂々巡りの疑問を持つくらいなら、いっそ直ぐに確かめてみよう。


あたしは身体を伸して…


「イデッッ!!!」

「芹霞、毟らないッッ!!!」


車が蛇行運転を始めると同時に、慌てた玲くんに制された。


顔の"体毛"は本物らしい。


だったら…髪の毛は…。


「芹霞、大人しくしてようね、三沢さんの毛は真実の"野生"だから」


「がはははは。お嬢ちゃん、俺は昔から毛の成長が早くてな、これでも朝ヒゲ剃っているんだが、午後になればこの通り」


何と!!!


あたしは、玲くんのすべすべとした頬を見つめた。


「ん? どうかした?」


「玲くん、おヒゲというものは?」


そう聞くと、玲くんは――

頬を赤く染めて俯いた。

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