クランベールに行ってきます


 ロイドの金髪の向こうに満天の星空が見える。
 こんな見事な星空、日本では山奥にでも行かなければ見えない。
 クランベールは高い科学技術力を持ちながら、自然にも恵まれた国のようだ。

 初めて外の景色を見た。
 好きにしていいと言われたので、明日は外に出てみよう。

 ロイドは結衣の首に百円ライターくらいの大きさの細長い板を近づけ、そこに付いたボタンを押した。
 ピッと小さな音がした。

「もういいぞ。ちょっと喉に違和感を感じるだろうけどな」

 そう言うとロイドは、リモコンをポケットにしまい、結衣の元を離れると手すりにもたれて腕を組んだ。
 少ししてロイドの言った通り、喉の奥がいがらっぽくなって空咳が出た。
 結衣は喉を撫でながらロイドに尋ねた。

「何? これ……。あ、声が戻ってる」

「マイクロマシンが食道に移動してるんだ。終了時間が来るか、停止命令を受け取ったら食道に移動するようになってる。おまえが便秘じゃなかったら、明日体外に排出されるはずだ。その違和感は改良の余地があるけどな」

「だったら、一年かけてテストしてる時に改良すればよかったのに」

 結衣も手すりにもたれて星空を見上げながらつぶやいた。

「ほんの数秒の事だし、まさかオレ以外の人間が常用するとは思わなかったしな」
「やっぱ使う当てのない、おもちゃだったんだ」

 結衣はロイドを横目で見つめて、大きくため息をついた。
 気を取り直してロイドに尋ねる。

「そんな事より王子様の方は? 身代金の要求とかないの?」
「ない」
「誘拐じゃないのかな?」
「殿下の身柄そのものが目的なら、身代金の要求はないぞ」

 それを聞くと結衣は髪を翻して、ロイドの方を向いた。

「やっぱ、あの叔父さんが怪しいんじゃない?」
「めったな事を口にするなと言っただろう。その可能性はない」

 自分の名案をあっさり否定されて、結衣は口をとがらせた。

「なんで?」
「おまえを見ても特に変わった様子がなかったからだ。自分の攫った人間が目の前に現れたら、よっぽどの役者でない限り、少なからず動揺するだろう」

「そっか、平然とイヤミ言ってたもんね。私を王子様だと思い込んでたし。でも、あの人は関係なくても、あの人の支持者は怪しいかもしれないわ」

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