クランベールに行ってきます


 ロイドにしてみれば、ちょっとからかってみただけなのだ。
 でなければ、あんな顔をするわけがない。

 初めてのキスの相手が、自分の事を何とも思っていない。
 それが悲しかった。

 なのに心が揺れている。
 ロイドの甘い笑顔を思い出すと、あのキスを思い出すと、自然に鼓動が早くなる。

「……絶対違う……あんな奴、好きじゃない……」

 きっと心が騙されている。
 初めてのキスにドキドキしたのを恋だと勘違いしている。

 言い聞かせるほどに、胸の鼓動は激しさを増す。

 もう、何が原因で涙が出るのかわからなくなってきた。

「……バカ……もう、帰りたい……」

 ベッドに縋って顔を伏せると、小鳥が近寄ってきて結衣の手を軽くつついた。
 顔を上げて見つめると、小鳥も首を傾げて結衣を見つめた。
 慰めてくれているような気がして、結衣は小鳥の背中をなでた。

「ロイド……」

 なんとなく名前を呼んでみると、胸の奥がキューッとなった。

 側で小鳥がピッと一声鳴いた。


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