クランベールに行ってきます

2.観察記録



 クランベール王国王宮医師である、ぼくローザン=セグラが王宮内にある機械工学の研究室で、助手を務めるようになって八日目となった。
 この研究室の主ロイドさんは、とにかく強引な人で、ぼくが畑違いの助手をしているのは、この人に押し切られたからに他ならない。

 ロイドさんは色々と便利な機械を作ってくれるし、親切なので王宮内の使用人たちには評判がいい。
 その反面、何の役に立つのかわからない妙な機械もたくさん作って驚かせるので、変わり者としても有名だ。

 いつだったか、新しいマシンの臨床試験だとかで、一年くらい女性の声で生活していた事がある。
 あのマシンが役立つ日が来るのだろうかと思っていたが、今役立っているようだ。

 ロイドさんと初めて話をしたのは、医療機器の開発で意見を聞きたいと、やって来た時だったと思う。

 その後もマシンが暴走してケガをしたとか、甘いものを食べすぎて胸焼けがするとか、度々医務室にやって来て、気がついたら、なんだか彼の子分のようになっていた。

 ロイドさんは背が高くて体型も顔の造作も整っているし、見た目は充分男前なんだけど、その変わり者ぶりと時々下ネタの冗談を言うので、女の子の受けはあまりよくない。

 ところが、この変わり者に、ひるまない女性が現れた。

「ロイド、ローザン、お茶にしよう」
「はい」

 ぼくは振り返って返事をすると、席を立った。
 笑顔で手招きする、レフォール殿下にそっくりなこの女性ユイさんは、異世界からやって来たという。

 研究室の隅にある休憩コーナーにやって来たぼくは、机の上に並べられたお菓子を見て思わず歓声を上げた。

「わぁ、おいしそうですね。今日のは何ですか?」

 ユイさんは得意げに説明してくれる。

「クリームパイよ。パイ生地にカスタードクリームを乗せて、その上に生クリームを乗せたの。仕上げはメレンゲでフタをして、デコレーションした上を軽くバーナーで焦がしてあるの」

「甘そうですね」
「そんなに甘くはないけど、食べ過ぎると重いかもね。焼き型が小さかったから重量感ないと、この人が足りなくて、また他人のを横取りするといけないし」

 そう言ってユイさんは、側に来たロイドさんを指差した。

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