週末の薬指
「え?」

『ああ、わかったよ。すぐにそっちに行くから出てけよ』

『はいはい、すぐに来てくださいよ。夏弥さんが大好きな鶏からいっぱいありますからねー』

『あ、梓、隆平の好きな明太子もあるから、ちゃんと出しておいて』

『……はーい』

梓?美月 梓の事?
今仲良く会話をしていたのは確かに美月梓の声だった。

『あ、花緒ごめん。今から今日の打ち上げだから行くわ』

何事もなかったかのような軽い口調の夏弥だけど、私の気持ちはぐるぐるとまわっていて吐きそうだ。

「ねえ、梓って……」

『ああ、聞こえたか?そう、美月梓だ。……詳しい事は帰ってから話すけど、しばらく俺が彼女の側にいる事になったから。でも、何もないから安心しろ』

安心しろって言われても。

結局それ以上聞くタイミングを掴めないまま会話は終わってしまった。

信じるしかないけれど、それでも眠れない夜を過ごして。

翌朝、疲れが取れない体で朝食をとっていると。

『美月梓熱愛。お相手は住宅会社の営業マン』

ぼんやりと観ていたテレビから流れてきたスクープ。

沖縄の真っ青な海を背に、リポーターが熱く叫んでいた。

「嘘……」
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