週末の薬指
エレベータを10階で降りて、食堂に入った時、ポケットの携帯が震えた。

シュンペーかな。何かトラブルでも起きたかな。

憂鬱な気持ちで画面を見ると、

「あ、夏弥」

その名前を見た瞬間心臓が跳ねて呼吸が止まりそうになった。

携帯を持つ手も震えて、落としそうになりながら

「もしもし、夏弥?もしもし」

慌てて叫んでしまった。

『そんなに慌てるなよ。そこまで俺に会いたかったか?』

「夏弥?えっと、その、『住宅会社の営業マン』って夏弥の事?……あ」

『いきなりだな。そんなに気になった?『住宅会社の営業マン』が誰か』

「そ、そりゃあ気になるよ……だって、昨日電話で……『梓』って呼んでたし……」

『あー、そうだっけ。とりあえず、この沖縄では彼女はすっごくいい仕事してくれてる。だから俺も気楽に付き合ってるんだ。スタッフみんなが『梓』って呼んでるのに俺だけ距離作るのもおかしいしな。同じように呼んでるんだ』

「……そ、そうなんだ……」

くすくすと笑いながら、普段と変わらない軽い口調の夏弥の言葉を聞いて、少し気持ちは落ち着いた。

けれど、肝心な事には答えてもらっていないと気づく。

< 139 / 226 >

この作品をシェア

pagetop