怪談短編集
ホームレスの大予言

1.僕の憂鬱


 僕は、思わず大声を上げた。

「父さん、今、なんて言ったの?」

 銀縁メガネを外して別人の父さんが、コーヒーのマグカップをテーブルに戻す。

「今は夜なんだから、静かにしなさい」

 幼稚園児をなだめるみたいにゆっくりと、言った。こういう口調のときは、大体は僕を説得する前のご機嫌取りなんだ。

 僕は、父さんを睨みつけた。

「ねぇ、嘘だよね?」

 引っ越すなんて、さ。

 だけど僕は、わかってた。父さんが、こんな冗談を言う人じゃないって。

 それがわかっていたからこそ、僕の声は震えていた。

「悠太、もう諦めなさい」
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