天使の舞―前編―【完】

  愛する者を妃に望め

キャスパトレイユの腕の中に抱えられたまま、乃莉子は意識を取り戻した。


壁を通り抜けて、鏡に突進したまでは覚えているが、どうやら今この時まで、気を失っていたようだ。


うっすらと目を開けると、眩しいばかりの白に、しばらく視界を遮られた乃莉子は、だんだん周りの景色が見えるようになってきた。


瞳を細めて、目を凝らす。


まばゆいばかりの、青い空。


見渡す限りの、緑。


先ほどまで居た、薄暗い灰色の世界とはまるで違う風景が、乃莉子の周りにはあった。


「悠くん。」


天界の王宮の鏡の間に抜け出たキャスは、アマネが追って来るであろう事を想定して、乃莉子を抱えて外を滑空していたのだ。


「気がついたか?」


キャスはニッと笑うと、静かに地上に舞い降りた。


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