月が出て、雲が浮かぶ。


そんな、当たり前の夜。

ただ、私の心の内だけが、いつもとは明らかに違っていた。



「………どうした、ファナ」


奴隷の子供達が過ごすテントの隣に、小さな店主のテントが張られた。

それが、店終いの印。

そのテントの中へ、ファナと呼ばれた私は、『彼』の顔色を伺いながら、入った。

…店主である『彼』、エルガは私の様子を見て、面白そうに笑う。


「…なんだ、腹でも減ったのか?それなら喜べ。今日はひとり、パン二枚だぞ」


…そうじゃ、ない。

私は首を横に振る。

...わかっているくせに。


「…じゃあ、なんだ?」

「…………」


なにも言わないでいると、エルガはふっと笑って言った。


「…今日、店に来た青年か」



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