幸せになるの、というのが、その少女の口癖だった。

 ザカリス王国でも比肩するものがないほどの権勢を誇る、オブライエン公爵家。

 その末の姫君として生まれたユフィーナは、緩く巻いた淡い金髪、命萌え出ずる春の新緑を思わせる瞳を持ち、幼い頃から見る者全てが愛らしいと口を揃える、そんな宣言などせずとも幸せになることを約束されたような少女だった。

「あら、何を言っているの、ジーク? そりゃあ、私だって今は可愛くってキレイかもしれないけど、五十年後にはみーんな同じ、しわしわのお婆ちゃんになるのよ? 勿論、可愛いお婆ちゃんになること間違いなしとは思うけど!」

 くるくるとよく笑う少女のサクランボのような唇が、自分の知る他のどんな令嬢と違う言葉を紡ぎ出すのが、面白かった。

「うちのお父さまだって、しょっちゅう色んな女の人と仲良くしてるって聞くし。お母さまみたいに、立派な後継の兄様と、趣味と気の合う姉様と、可愛い末娘の私を産んで地位が盤石だからこそ、優雅に公爵夫人の看板を背負ってうふふおほほって笑っていられるのよね。そうじゃなきゃ、お父さまがヨソで作った子供を養子にして、きっと肩身の狭い思いをしていたんだわ」

 ――その内容は、蝶よ花よと育てられた筈の令嬢が口にするものとしては、些かずれていたが。

 貴族のお姫様らしくないってことは自覚してるのよ、といつも笑っていた。

 ただ花を愛でるだけでなく、それが種から芽吹いて葉を茂らせ、蕾を宿して、それが花開くまでの全てに興味を持ち、庭師の後について回って泥だらけになる。

 力ある貴族の嗜みとして、あらゆる毒に耐性をつけるべく、幼い頃から少しずつ食事に毒物が混ぜられていることを知るや、それがどのような原料から精製されるものなのかをお抱えの薬師に根掘り葉掘り尋ねる。

 護身術として剣術の指南役がやって来れば、自分の細腕で剣を振るったところで男に敵うはずもない、とさっさと見切りを付け、代わりにどういう伝手で引っ張ってきたのか、暗器や針、果ては暗殺者のココロを知るにはその技を知るべしと言い出して、公爵家お抱えの「職人」に教えを請う。

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