ベイビー&ベイビー
第13話
第13話

「君は、どこまで知っている?」

「どこまでとは」


 先ほどの涼太郎の宣言。明日香と結婚する、その言葉が頭の中で何度も何度も繰り返している。
 それ以外は真っ白だ。

 何も考えられない。

 そんな俺に、涼太郎はそ知らぬふりをして話を続けていく。
 俺は、そんな涼太郎に相槌らしき言葉を言うだけで精一杯だ。

 まだ、俺の頭の中は、涼太郎と明日香が結婚するという言葉がリフレインしている。


「明日香の口からは何も聞いたことがないみたいだな」

「……プライベートのことは、何も知らない」


 そう、明日香のプライベートの話は一切知らない。
 つい先日にやっと、明日香の実家は京都にあり、表千家笹原流家元が父親だということを知っただけだ。

 それだけなのだ。

 今までは、何も知らなくても良かった。
 ただ、明日香とさやかと。穏やかな時間が過ごせることだけで満足していた。

 だけど、こうして涼太郎に明日香のプライベートのことを聞かれた時。
 何も知らないという現実を突きつけられて、初めてズクンと痛む心を感じた。

 俺は明日香のことを何も知らない。
 それで良かった。

 今まではそれで困ることなんて、何一つなかった。
 会社で席を並べて、ちょっとした合間に話をして、お互い笑って、そして仕事をまた頑張れる。
 同期で、お互いベビーフェイスで、会社では癒し系なんて言われて。

 笑って、笑って、にこにこ笑って。
 明日香の笑顔に、どれだけ元気を貰っていたか。
 どれだけ、癒されていたか。

 俺のことも周りでは「癒し系」なんて言っていたが、それは違う。
 俺は、明日香のその穏やかな笑顔があったからこそ笑っていられた。
 ベビーフェイスの俺がにこやかに笑っていたから和むなんて言われていたのだ。

 俺の笑顔はすべて、明日香が作ってくれていたんだ。

 その笑顔を作ってくれる明日香の前から消える?
 そんなこと出来るのだろうか。


「明日香とは、明日香の兄の宗一の紹介で知り合ったんだ。あれは明日香が大学2年だったな」

「……」

「俺はひと目で明日香を気に入ったよ。で、猛アタックして明日香を彼女にした。明日香も私の気持ちに答えてくれた」

「……」

「確かに明日香は私のことを好きでいてくれたと思う。付き合って2年。だけど、結果なかなか明日香の初恋の男の影を消すことは出来なかった」

「初恋の男?」


 俺が涼太郎にそう問うと、苦虫を潰したような顔で、その切れ長な瞳で冷たい視線を俺に向けた。




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