エレーナ再びそれぞれの想い
いつも一緒だし、妙に仲が良い。調べてみたら住所も同じ。
聡美は黒川さんの事を家ではお母さんって呼んでいるみたい。
私も最初は、親戚か何かだと思っていた。まさか実の親子だったとはね」
「ワァァァー」
耐えられなくなったシュウは奇声を発すると、逃げるように教室を飛び出した。
驚愕のあまり、シュウは自分が壊れ、ぐちゃぐちゃになりながらも、まだ勢いだけで転がり続けるような状態になっていた。
なつみからしてみれば、追い出し作戦を難なく乗り越えて行く、白川シュウの余裕なほど落ち着いた姿が、嫌みにも思え、憎かった。
なつみは、シュウが壊れていくのがいい気味だった。
だが、シュウ以上にひどく動揺している者がいた。
エレーナだ。
彼女は、シュウの学校生活を支援するため、いつものように姿を消して、教室に潜り込んでいた。
そして偶然にもふたりの会話を全て聴いてしまったのだ。
「そんな、シュウ君が、黒川さんの事を!?」
  
 シュウは全速力で長い校舎の廊下を走った。
だが、廊下の突きあたりの所から出てきた千鶴と衝突しそうになった。
「あっ」
千鶴は悲鳴を上げた。
シュウは幽霊なので、千鶴にはぶつからず、そのまま彼女の体の中を通り抜けた。
人は強く驚くと目をつぶる。
千鶴もその瞬間、目をつぶっていたので、シュウが自分の体を通り抜けたとは知らず、ぶつかったという感触すらなかったので、シュウがうまくよけたと思っていた。
おかげで、シュウは幽霊だと気づかれずに済んだのだ。
「白川君」
千鶴が呼び止めた。
シュウは、我に返った。
「どうしたの? そんなに走って」
心配そうにシュウの顔を覗き込む千鶴。シュウはうつむいたまま何も喋らない。
明らかにシュウの様子がおかしいと感じた千鶴は、
「白川君、ちょっといいかな」
シュウを、誰もいない空き教室へ連れていった。
シュウは最初、ひどく動揺して、千鶴が何を話し掛けても答えられなかったが、
やがて、落ち着きを取り戻した。
「落ち着いた? その様子だと、もしかしてまた柚原さん達に何かされたの?」
「どうして分かるんですか?」
「何か、そんな気がした」
シュウは、さっきなつみから聞いた黒川の話をした。
「最近、柚原さん、やり過ぎだよね。そこまで黒川さんの事を悪く言わなくても」
千鶴は、シュウの気持ちをうすうす感づいていた。
「好きなんでしょ? 黒川さんが」

< 41 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop