エレーナ再びそれぞれの想い
千鶴は、意味深なことを言い出した。
「私にも好きな人がいて、でもその人には、親しい女性がいる。
その人は女性ばかり見ていて、彼女といるときはすごく楽しそうでいきいきとしている。
いくら私が積極的に話しかけても、全く振り向いてもらえない。
私には分かるの。その人の女性に対する気持ちが。
嫌っていうほど伝わってくる。私の出る幕なんかない。
本当に好きな人には、自分の気持ちは伝わらないかもしれないね」
千鶴は、うっすらと涙を浮かべた。
千鶴は、シュウが好きであった。だが、本当の気持ちなんて言えなかった。
余計な事を言ってはシュウを苦しめるだけ。
意味深な言葉は、シュウに伝えたい本当の気持ちと、それを言ってはいけないという気持ちの間で揺れ動くぎりぎりのところなのだ。
千鶴はかつて、祖父の陰におびえていた。
地方議員である祖父は、出世目当てに名門であるシュウの実家に取りいられるために、孫である千鶴をシュウに近づけようとした。
千鶴は最初、祖父に逆らえず嫌々シュウに接していたが、彼のおかげで祖父の呪縛から解放され、シュウを本気で好きになっていたのだった。
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