久しぶりに保育園に行って疲れた子供たちは、すぐに寝入ってくれた。

 それを確認してから、真紀はさっと布団から脱出する。

 目には涙が滲み、瞼が重い。だけどそんなことは、今はどうでも良かった。

 頭の中でイメージした通り、引き出しの中から去年の年賀状を出し、一枚一枚調べていく。 

 吉住の年賀状は多く、毎年300枚ほど出しているが、その中に目当ての物は必ずある。そう確信して、次々めくって行く。

「あった」

 思わず声に出た。

 そして、構わず、自分の携帯から差出人の電話番号に電話をする。

 電話をしたことで吉住はムッとするかもしれないが、もし、そういう思いをしたとしても、この人なら宥めてくれそうだった。

 畑山誠二なら。

 自宅の電話番号にかけるのは初めてのことだが、今の時間なら出る確率は半々か、そう思いながらかける。

 コールを10回ほど鳴らしても、相手は出ない。

 もしかしたら、まだ仕事かもしれないし、彼女とどこかへ行ったのかもしれない。

 けど明日は平日なので、それほど遅くはならないはず。

 自宅の電話がナンバーディスプレイ表示になっているのかどうか分からないので、1分だけ待って、もう一度かけてみる。

 これで出なければ30分、時間を置いてかけるつもりだった。

 それくらい、今は畑山に間に入っていてほしかった。

『……もしもし』

 10回目のコールでようやく畑山は出た。もしかしたら、トイレだったのかもしれない。

だが、余計な詮索は一瞬で消し、私はすぐに名乗った。

「真紀です。こんばんは」

『あれっ、はいはい。どうしたの?』

 畑山は相当驚いている。

「来て……うちに」

 吉住が分かってくれないことや、どうにか言い聞かせてほしいことを伝えたくて電話をかけたのに、出て来たのはそれだけだった。

『えっ、大丈夫? 修三は?』

「仕事……行ったの」

『えっ……どういうこと?』

「子供は寝てるから……」

『うん……。どうしたの?』

 想像以上に畑山の反応が鈍く、急に1時間半という距離を思い出した。

「あそっか……遠いよね」

『いや、それはいいんだけど。何か……不安なことがあるの?』

「…………」

 言い出せばきりがないくらいあるのかもしれない。

『行くよ。家だね。そこでいてね、真紀さんは』

「子供がいるのに、どこにも行けない」

 畑山が来てくれると思ったせいで、急に甘えが出た。

『うん、分かった。ちょっと待って。すぐ掛け直す。携帯からかけ直すからね。10分くらいかな。用意して車に乗ったらかけるから。いい? 待てる?』

「うん」

 涙が流れたが、止めようとは思わなかった。

『もう一度かけるからね、そのままでいてね』

 吉住がこんな風に優しかったら。

 こんな風に私のことを理解してくれて、こんな風に大事にしてくれていたら。

 私は、4人も子供を産まなかったかもしれないし、もつと自由に暮らしていたかもしれない。

 10分は長い。そう覚悟していたのに、畑山は3分程度で電話を折り返した。

『ごめん、待たせたね』

「ううん……」

 背後でドアを閉める音が聞こえた。

「ごめんなさい……」

『ううん、それはいいんだけど。どうしたの? 話を聞きながら、行くよ』

 駐車場に降りているらしき、階段を下りる音が聞こえる。

「明日、仕事よね……」

 当然だ。

『まあ、それはいいから』 

 言いながら、車のドアを閉める音が聞こえた。次いでエンジンがかかる。

『修三が仕事って、今日は普通に出社したの?』

「……話は、今日の朝から始まるんだけど」

『うん、いいよ。どこからでも話して』

 今までの出会ってからの私たち夫婦をずっと見て来てくれた畑山に遠慮はいらない。そう思って、この一時間半、私自身のことを語ろうと思った。

「私、3人目の子供をつくる時、嫌だって言ったの」

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