瑠璃の瞳と夕焼けと
プロローグ-彼女の夕焼け
彼女は、孤独だった。

そう、孤独だったのだ。

何一つ不自由ない暮らし。世間知らずだった姫君は、いつのまにか
世界を奪い、忌み嫌われていた。そして、その彼女は語る。


「私は世界から奪った。たった一つだけ。たった一つ、夕焼けを奪っただけなのに。
でも、そのたった一つが、かけがえのない物だと、私は知らなかった。」


哀しげに、瞳を閉じる。
傍らに寄り添う少年…否、悪魔は言う。


「だから、お前が取り戻すんだろ、バニラ。」


こちらは優しげに瞳を細めて、彼女…バニラの頬に手をあてた。

バニラは顔をあげた。彼女は、もう世間知らずだったお姫様ではないのだ。


「そうね。ありがと。…そろそろ行きましょ、リウス。楽しいティータイムはおしまい、ね。」

リウスと呼ばれた悪魔は、コクンと頷き、バニラを大事そうに抱き上げた。

そして、そのまま、地を蹴り、飛翔した。

彼女は、これからある物を取り戻しに行く。

ある者の思い出を、またある者の愛を。

取り戻す、と言うのはおかしいかもしれない。

正確には、「創り直す」だ。


彼女たちが翔んだ空には、淡いオレンジ色が浮かんでいた。
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