恋人達の時間
hold on me ! ~you & me~
すれ違った人が
振り返る気配がする。


「うわ」
「やばいって~!」
「イケてる」


すれ違いざまに囁きあう
黄色い声が聴こえる。


引き締まった長身で
スーツを着こなす貴方は
クールで艶やかで
さりげなく周りの視線を
集めてしまう。


「最高…!」
「何が?」


怪訝そうな視線で見下ろす貴方には
聞こえていないの?
ああ、そうね。
それだけ背が高ければ 
密やかな囁きなど
聞こえるはずがないものね。


「こっちの話!行きましょ」
「おかしな奴だな」


浅く絡めていた彼の腕を
抱え込むように深く絡めなおすと
「おい」と貴方が肘で私をつつく。


「恥ずかしいの?」
「そう言うわけじゃ・・・」
「嫌なら いいわよ」


ぱっとその腕を解放して
その間を人が行き交いできるほどの
距離をとる。
あっけに取られて
遅れをとった貴方を置き去りにして容赦なく遠ざかる。


ねえ、早く捕まえて?
50Mが6秒ジャストというのはウソ?



ほら、早く捕まえて?
でないと他の誰かに
捕まってしまうわよ。


今朝、ミュールをチョイスしたのが
悔やまれる。
足元がフラットなら
全力で駆け出してやるのに。


早く私を追いかけて!


でも・・・ 
捕まえてくれなかったら
どうしよう。
振り返って
もしも貴方がいなかったら・・・


どうしよう―――


そんな不安がよぎった瞬間に
ふわりと肩を抱かれて
胸騒ぎのする香りに包まれる。


「こんなところで鬼ごっこか?」
「鬼ごっこって!」


分かってないんだから、もう!


むくれた私の耳元に
触れるほど寄せた唇から
低く甘く囁く声。


「どこへ逃げても捕まえる」


何よ!
分かってるんじゃない、もう・・・


「俺から逃げ出せたら、の
話だけどな」



その一言が私の全てを篭絡する。
肩を抱く腕の力が
強くなったのよりも
ずっと。ずっと。



fin
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