俺と初めての恋愛をしよう
 「相変わらず此処で一人、昼メシ食ってるのか?」

 「ど、どうしてそれを……」

 動揺してしまい、持っていた雑誌を落とす。

 「それくらいわかるさ、林、お前を見てればな」

 今日子は、後藤から雑誌を拾い渡される。
 今日子は、後藤が下げているコンビニの袋を見て、これから休憩なんだと気が付く。

 「部長、これから休憩なんですね。私はもう済みましたから部署に戻ります。ごゆっくりどうぞ」

 なんとか冷静に対応し、自分の荷物をまとめ、お辞儀をした。

 「此処にいろ」

 後藤の傍を通り過ぎようとした今日子の腕を掴んで、ソファに座らせる。

 「あの、ちょっと……」
 「歓迎会の時はまんまと逃げられたな。今は逃がさないぞ、此処にいろ」

 後藤は何故、今日子を放って置かないのだろう。
必要以上に人とは関わりたくない。今日子の世界に侵入してきて欲しくないのだ。
今まで、決めた世界で生きてきた。突然の進路変更は対応できないのだ。
今日子の心の中は、拒絶で一杯になる。

 「……」
 「相変わらず、無口で淡々と仕事をして、上手いこと人と交わらず目立つこともしないな」

 分かっているなら、そっとして置いて欲しい。何故構うのか?そんな言葉が、口から出てしまいそうになった。今日子が感情を出すのは、かなり珍しいことだ。

 「……」
「なんだろうな、お前の闇は。俺が何とか出来ないものなのか?」

後藤には分かってしまうのだろうか。ますます今日子は、後藤と距離をおきたくなる。自分の闇を知られてしまうのは、まだまだ「無」になり切れていないからなのか。今日子は悶々と考える。

 「せ、性格です」

 見通されているようで寒気が走った。
 自分でどうしようも出来ないのに、後藤に出来るはずもない。

「部長、もうそろそろ休憩が終わりますのでお先に失礼します」
「分かった」

 
< 10 / 190 >

この作品をシェア

pagetop