シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

思案 玲Side

 玲Side
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櫂達と別れ、睦月と翠と共に塔の頂上を目指していた僕。

間近で見る翠の能力は、以前に比べて飛躍的に開花している。

空高く浮遊できることも、それを維持出来ることも、同時に桜に似た吉祥という式神を使役できるのも。

一介の陰陽師というより新人類じみているが、それでも短期間での進化度は、驚嘆すべき事柄。

ただ、大きな力を一度に使い続けることによって、オーバーヒートのような反動が、いつ翠をおそうかわからない…その不安があった。

小康的になんとか落ち着いた、今の状況がこのまま続くならいい。


だが、この世界は不穏に揺れている。

ここの住人を、そしてこの世界を救うために、翠にも精一杯努力してもらわないといけない。

いつも回復結界は僕の専門のようなものだったけれど、僕がこの世界の統制の方に尽力するのなら、間違いなく吉祥を司れる翠が"回復機能"の要となる。

今後に備え、無駄な力の放出はできる限りおさえたい。


そう思い、翠がこのまま睦月と僕を連れて、塔の外から頂上に向けて飛び続けようとしたのを拒み、一旦吉祥をしまって力を温存してもらい、睦月の先導で塔の内部から、物理的エレベータを使うことにした。


「確かに、このエレベータは高速移動だけどさ…」


ぶつぶつ、文句を言う翠の手のひらに僕はいる。

体がすっと持ち上がるような独特な浮遊感に、僕は荒っぽく煌に放られた、あの…無性に笑い出したい高揚した心地を押さえ、違うことを考える。

冷静になり、気になるのは…周涅の術についてだった。

僕が見ていなかったこの世界の概要を、かいつまんで翠から聞く。


周涅がこの世界にかけた術は、9つの石碑を使う"九星の陣"。

それは翠が最も信頼していた剣鎧童子が告げたという。

だが多分その発動時期は、僕たちも表世界で同時期に、周涅の同じ"九星の陣"によって、あの研究所内を彷徨させられてたと思う。

それを抜け出れたのは、美咲さんの命を持って。

ふたつの世界を股にかけてかけられていた術は、表世界ひとつだけでも…そこまでしないと破けないほど、強大なものだった。


裏世界の九星の陣。

それを破れるのは、別の方法だった。


石碑の正しい順路にて大きな力を一気に走らせる必要があった。


だが今になって思えば、同じ術だというのなら、もっと共通項があってもいいはずだと思う。


そう考えれば――

この世界でも、もしかして…誰かの命が必要だったのではないか。
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