君の姿が見えなくても。
愛と光と雪。

麗子との出会いで生き方が変わった。
遊喜との出会いで世界の見え方が変わった。

麗子は光を知らない。
遊喜は愛を知らない。

高貴な彼と、貧乏な彼女。

遊喜は今まで偽りの愛を本当の愛だと思っていた。
でも、「麗子」は本当の愛を教えてくれた。

麗子は今まで光を知らなかった。
でも、「遊喜」は温かい光を教えてくれた。

「遊喜クン、君には私はどう写っているの?」
「麗子サン、貴方は俺のコトをどお思っていますか?」

二人は「本当の光=愛」を知らない。

遊喜は彼女のために。
麗子は彼のために。

「麗子サンは幸せですか?」
「勿論よ」

麗子は遊喜の手に優しく触れた。
温もり。
遊喜は耳まで真っ赤になった。
でも、麗子は知らない。
それを少し寂しく思えた。

「あっ」
麗子は嬉しそうに空を指差した。
雪だ。
はしゃぐ麗子。
麗子が転ばないように身構える遊喜。

遊喜は麗子を抱えた。
「きゃっ」
遊喜はお姫様抱っこで雪降る街を歩いた。

「麗子サンもっともっと幸せになろう」
遊喜は温かい唇にキスをした。
「そうね」
麗子はくしゃっと笑った。

次の日の仕事帰り、遊喜は指輪を買った。
婚約指輪。
照れながらポケットに大事にしまった。

ある雪積もる日、麗子は変わっていた。
病院の一室で、遊喜を待っていた。

「れ…麗子サン…?」

遊喜は大切な人亡くした。
遊喜はまた「本当の愛」をなくした。

『また…俺は…一人なの…か?』

遊喜の中の「麗子」が崩れる。
青白い雪の様な「彼女」の頬に触れる。

もうあの頃の麗子じゃない。
これは麗子じゃない。
これは麗子じゃない。
これは麗子じゃない。
これは麗子じゃない。

遊喜はその場で意識がとんだ。

『…クン、…喜クン、遊喜クン』
『ここ、は?』

気がつくとそこは、自分の車の中だった。
助手席には麗子と夕陽があった。

『遊喜クン』
麗子はあの時と同じようにくしゃっと笑った。
『麗子…サン、目が…』

遊喜は麗子の頬を優しく撫でた。
そう、麗子は初めて遊喜を見た。

『遊喜クンってこんな顔だったんだ』
『想像と違う?』
『ううん、でも黒髪かと思ってた』
『俺のコト…嫌いになりましたか…?』
『馬鹿ねぇ、私が愛してるには遊喜クンだけよ』

麗子は遊喜の手を優しく握った。

『れ、麗子サ…』

麗子はだんだんと薄れてきた。
麗子は悲しそうに静かに笑った。
足に方から消えていく。

『だっ駄目だ!消えないでくださいっ!俺を、俺を一人に…っ』

麗子は力強く遊喜を抱きしめた。
遊喜も必死に抱きしめた。

『私を…私を見つけてくれてありがとう。抱きしめてくれてありがとう。キスしてくれてありがとう。ずっと一緒にいてくれてありがう。光を教えてくれてありがとう。私を…本当に愛してくれて…本当に、ありがとう。』

麗子は遊喜の唇に優しくキスをして、車のドアを開けた。

『俺っ…は!麗子サンがいて!本当に!本当に!!幸せでしたっ!!!結婚して下さいっ…!!!!』

無理なコトはわかっている。
どんなに泣いたって、叫んだって、麗子はもういない。

でも、微かに聞こえた。
『喜んでっ』
くしゃっと笑う麗子の顔。

麗子は夕陽と共に消えた。
辺りは急に暗くなった。

目を開けるとそこは病室だった。

そこには、麗子の両親、遊喜の両親がいた。

隣を見ると麗子が眠っていた。
その顔はどこか優しい顔だった。
そして、麗子と手を繋いでいた。
冷たい。
本当に麗子は…。

麗子のいなくなってから40年。
引っ越して長野の田舎の方に移住し、農業に励んでいた。
もう64歳になったが、元気に自給自足の生活をおくっていた。
優しい村の人と一緒に。

「そろそろだな」

例えどんなに歳をとっても、姿が見えなくても…



遊喜の心にはいつも彼女の笑顔があった。

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