君と、世界の果てで
(5)通り過ぎた雨のあとで
「お待たせしました!ごめんなさい、混んでて……」
煙草を一本吸い終わった時に、深音は現れた。
「大して待ってねぇよ。行くか」
煙たい喫煙室から、早く彼女を離したくて、早足で歩いた。
「まだ、服見るか?」
「うーん、ほとんど見ちゃいました。
買うほど欲しいものはなかったなぁ」
「そうか。じゃ、どうする?」
「イカ……」
「は?」
「おさかな市場で売ってた、イカの姿焼きが食べたい……」
「……」
恥ずかしそうに呟いたお姫様の代わりに、何故か家来の俺がイカを買ってくるはめになった。
何だかなぁ。
「さっきの子が見たら、泣くな」
「おいひいれすよ」
しかも人の車でイカ食いやがって。
「いらん。普通、誕生日はケーキだろ」
「あ、ケーキも食べたい!」
……墓穴掘ったか。
あぁ、イカくせぇ。
窓を開けてやると、深音は寒さで、ひゃあと悲鳴をあげた。