涙と、残り香を抱きしめて…【完】

疑惑と不安

　


仁の残り香が消えたベットで眼を覚ます。


昨夜も仁は帰って行った。


沈んだ気持ちで起き上がり
仕事に行く用意を始めると
フッと、あの事を思い出した。


昨日の私のキスの犠牲者
成宮蒼の事


さぞ驚いただろう…
驚いただけならいいけど
変態とか思われてたりして…


一応、謝っといた方がいいよね。


手早くお化粧を済ませ
部屋を出る。


ピンポーン…


「…誰？」

「私…島津です」

「はあ？」


玄関の扉が勢いよく開いた。


「なんで…ここに居るの？」

「あ…昨日の事、謝ろうと思って」

「じゃなくて、こんな朝早く
どうして島津部長がここに居る？」

「えっ…だって、お隣さんだし」

「と、となりぃー？」


成宮蒼がお口あんぐりで私を凝視してる。


「あれ？聞いてなかった？
私も社宅住まいなんだけど…」

「マジかよ…」


そんなに驚く事？


「昨日は、ホントにごめんなさい…
アレは、その…私の悪い酒癖で
気にしないで」

「あ、あぁ…、気にしてないから…」

「そう。良かった。
じゃあ、私、会社行くから」


そう言って扉を閉めようとすると
成宮蒼が大声を上げた。


「俺も、もう出るとこなんだ。
ちょっと待っててくれ」


一度、部屋へ戻った成宮蒼が慌てて飛び出して来る。


「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ」


笑いながらエレベーターのボタンを押すと
私の部屋の隣の扉が開いた。


「なんだ？
朝から騒がしいなぁ」