プラトニック

歩き出すために

ミキ姉が赤ちゃんを無事に出産した。

3500グラムの元気な男の子。

パパとママの名前をとって、“幹太”と名づけた。


「俺んちに男のベビー服いっぱいあるねん。
もしよかったら、幹太くんにどうかな」


そんなことを言い出したのは、卓巳だった。


「なんで卓巳んちに男児用があるわけ?」

「それがさ、妊娠がわかったとき嫁の親が異様に盛り上がって、まだ男か女かもわからんのに、両方を大量に買ってきてん」

「で、結局生まれたのが女の子やったってわけだ?」

「そういうこと」


不要になった男の子用のベビー服を、一度も着せることなくタンスで眠らせていると言うので、遠慮なく譲ってもらうことにした。
 

だけど卓巳は、この先もう子供を望むことはないのだろうか。

よけいなお世話だが、少しそう思った。






日曜日。

うちのマンションの前に卓巳は車を停めた。


「うわあ、いっぱいあるね」

「やろ? もらってくれて助かるねん」


段ボール箱にぎっしり詰まったベビー服は、ビニールの包装すら破られていない。


こんな状態ならいくらでも貰い手があっただろうに、きっと今まで決心がつかなかったんだ。


「ありがとうね。上がってお茶でも飲んでいって」


クーラーのきいた部屋に招き入れ、冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出した。


卓巳の家に行くことはあったけど、うちに来てもらうのは初めてだ。


落ち着かない様子の卓巳に、


「何を今さら緊張してんの」

と意地悪く言うと、


「いや~。女の子の部屋やなあって思って」

なんて、妙に感心された。

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