天神楽の鳴き声
「うーん、暇じゃない、折角のお祭りなのに」
「あたしたちも傍にいますし、あ、なんなら、何か買ってきましょっか?祭り特有の出店とかで!」
「いいの?明乎!」
「いいよー!りっちゃんにも買ってくるね!」
「あら、ありがとうございます」

喋っている間に明乎は早々と雛生の顔に化粧を施す。鏡に映る自分がきらきらした別人に変わった頃、莉津の準備も終わったようだ。二人は満足げに雛生を見て微笑んだ。雛生の着物は、白と朱色と金糸銀糸、桃の花が可愛らしく刺繍されている。

明乎は雛生と莉津を朱紫の間に送り届けたあと、一人出店で買い物をするためにでかけていった。

「見やすいからといってあまり前の方へ行かないでくださいね。そこは舞う時の舞台にもなってますから丸見えになってしまいます」
「はーい」

涼しい風が吹いて、目の前の格子についた鈴を鳴らした。畳の上に座り、ほっと息をついた。

「あのー」
「あ、白の…」
「雛生様にお話がありまして」
「はい、私です」

自分を呼ぶ声が聞こえ、雛生はふりむいた。さらりと揺れた銀髪、涼やかな目元をもった美人の女性だ。お久しぶりです、と言った温度の低いその声には聞き覚えがある。
目が合い、にこりと微笑んだ。

「透茉です」
「あ、やっぱり、ってえ、え?」

透茉は雛生の耳元で囁いた。

「どうかご内密に。このような祭典の最中は女の身でなくてはなりませんから、見苦しくてすみません。」
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