夫婦で暮らすには、とてもじゃないけれど広い五階建マンションの五階の角部屋。

 ホワイトの家具で揃えられたリビングの壁に沿うよう建つ大きな本棚には、旦那さんのものであろう医学書や小説、漫画までもがところ狭しと並ぶ。



 ソファに挟まれたウッドテーブルには僕と瑠海に出されたティーカップが寄り添い合い、瑠海のにはココアが、僕のにはストレートティーが注がれた。



「そらくん、ご迷惑をかけて申し訳ありません」



 僕と瑠海の向かいに腰を下ろしたのは葉月さんで、酷く窶(やつ)れた顔が痛々しい。

 肩より少し長かった黒髪はショートカットに揃えられていて、彼女の苦悩が窺えた。



 母親が自ら命を絶ち、一ヶ月が経とうとしていたある午後。

 僕は、母親の死を心底から悲しんでくれている葉月さんの元を訪れた。

 もともと華奢だった体も何だか痩せ細ったように見えて、初対面の瑠海と親しく話す彼女を僕は黙って見つめる。



「瑠海です」

「初めまして。葉月優子です。瑠海ちゃんのお母さんと仲良くさせて頂いてるの」

「ママと?」



 母親の登場であからさまに表情を変えた瑠海は、きらきらと瞳を輝かせて葉月さんを見た。



 葉月さんには、瑠海が母親の死をまだ知らないことを予め電話で話しておいた。

 辛いことを頼んでしまったのは百も承知だけれど、葉月さんも瑠海の幼さを知って快く嘘に付き合てくれた。



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