携帯電話の電源を入れ、目的もなくあらゆるフォルダを開いてみる。

 データフォルダ、アドレス帳、メールボックス、着信履歴、発信履歴――。

 その全てが、まるで何かを隠すよう全消去されていた。



 思わず眉を寄せ、僕は操作途中の携帯をデスクに置いてバッグの中身を探った。

 母親が好む白色の革製の手帳。

 ここ最近を遡るように目を通したけれど、出勤日時や患者さんのこと、友人との予定などごくありふれたものだった。

 手帳と同じブランドの長財布も同様、不審なものは何ひとつ見つからない。

 バッグにはそれ以上調べるものはなく、縋るように電源をいれたパソコンも仕事関係のデータが保管されているだけだった。



 一体、母親の身に何が――。



 何かに操られるよう手を動かしていた僕は、パソコンの電源をそっと落とし、白のチェストベッドに力尽きるように腰を沈めた。



 明日、何の手かがりもないが真依子との再会を目指して瑠海と周辺を歩くつもりでいる。

 けれどこの調子だと、一刻も早く彼女と接触する必要がありそうだ。

 確かに警察は、事件の可能性は低いと言っていた。

 何者かと暴れた形跡はなく、病院を出て帰宅するまでの足取り、母親の人間関係など、細かく調査をしても、事件性はないと断定されたのだ。



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