【完】『潮騒物語』


日曜日になった。

トランクをコロコロひきながら、真っ白のロリータ服で萌々子はいつもの坂道を降りてゆく。

雲が切れた。

下り坂を右手に曲がりきると、キラキラと海が開けてくる。

晴れてきた。

坂の中ほどに花屋がある。

「こんにちは」

店長の星野美沙が萌々子に声をかけてきた。

「あ、お慶ちゃん今日休みだよ」

どうやら店ではお慶ちゃんと呼ばれているらしい。

「それとさ」

星野店長はいう。

「お慶ちゃんね…ちょっと変わってるでしょ?」

萌々子はしばし考えた。

「関西弁…ですか?」

「それもあるけど…あれで実は昔けっこう大変だったらしいんだよね」

プライバシーがあるから詳しくは話せないけど──と星野店長はいった。

「たぶんね、ひとりでフラフラするの好きだから、房総あたりまでバイクで遠征してると思う」

バイクかなり好きだしね、と星野店長は付け加えたのだが、

「そうなんですね」

としか萌々子は答えられなかった。




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