私とトロンボーン

友人に連れられて、私は音楽室の扉をくぐった。

そこにいたのはたくさんの、金色や銀色に光るそれだった。

「なんかかっこいい」

幼心にそう思った。

たくさんの人が席につき、楽器を組み立て、広げている。

はて?と、疑問が浮かんだ。

私は「人数が足りなくて困ってる」と聞いていた。
それにしては、人数が充分すぎる程に揃っているではないか。

疑問に思いながら、私は顧問の先生に連れられるまま、音楽準備室に入った。

そこで出会ったのは、彼……ではない。
彼とはまた別の彼だ。

銀色の鍵盤は少し錆ついていたが、変わらず綺麗な音を出してみせた彼…。

私は、鉄琴の担当になったのだ。

友人達が「足りなくて困って」いたのは、管楽器ではなかった。
パーカッションと呼ばれる打楽器だったのだ。

少し、いや、かなりがっかりした。

音楽室に入って目の当たりにしたのは、見たことのないかっこいい金色銀色達だったのに、私のそれはどうだろう?
同じ銀色でも、なんだかくすんで見える。
しかも、鉄琴は授業でもよく使っていた。
「お前はこれで充分だ」と言われているようで、悔しかった。
しかし、やると言った手前、今更「やっぱりやめます」は許されないだろう。

「ごめんね。打楽器しか残ってないの」

そう言った顧問の先生は、少し申し訳無さげに笑っていた。

恐らく、私の気持ちを見透かしていたに違いない。

今ならば、打楽器がどれほど重要で難しく、どれだけ必要なポジションかわかるが、当時はまだ私も若かったのだ。


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