恋するキミの、愛しい秘めごと

「……」

さっきから、胸の鼓動が少し速い。

二人で包まる毛布の中は、すごく温かくて心地よくて。

何だか勘違いしてしまいそうになる。


「カンちゃん、また私のシャンプー使ったでしょ?」

「おー、間違えた。さっきからヒヨの匂いがするなーと思ってたんだけど、俺の匂いか」

無邪気に笑う彼の髪から香った、自分と同じ花の匂いのせいなのかもしれない。


「さて、そろそろ中に入ってキムチ鍋食いますか」

「うん。そうだね」

あまりに居心地のいい、カンちゃんの隣のこの場所が、自分が探している場所なんじゃないかなんて――そんなバカみたいな錯覚さえ覚えしまう。


「カンちゃん、携帯光ってるよ」

「あー、多分冴子だ」

「……」

「電話もメールもシカトしちゃってたからね」

結局、言ってしまえば“カンちゃんの事が好きかもしれない”という事なんだけど、それはこんな風にいとも簡単に打ち消されてしまう想い。


「電話してから行くから、先に食ってて」

「わかったー」

それなら、最初からそんな想いは抱かない方がいいに決まっている。

ベッドの上に放り投げてある携帯を手に取り、耳にあてるカンちゃんを部屋に残し、ドアを閉めた。


外よりも温かいはずの廊下が妙に寒く感じて、身震いをした私は、そのままドアに寄りかかり小さな声で呟いた。

「私も好きな人作らなきゃ」

不毛な恋に走りそうになる自分にブレーキをかける為にも、きっとそれが一番いいんだろう。


ドアの向こうからは、自分には向けられた事のない、カンちゃんの柔らかい声が漏れ聞こえていて。

ほんの少し痛んだ胸に手を当て、息を吐き出した。

大丈夫。
まだまだ引き返せるでしょ。


「……よしっ! ゴハン食べよっと!」

カンちゃんはイトコで同僚で、いつかは解消されるルームメイト。

ただ、それだけの関係。

それがちゃんと解っているなら大丈夫。

恋人としてではなく家族として、いられる間はカンちゃんの傍にいよう。

それが、最良の選択に決まっている。


< 61 / 249 >

この作品をシェア

pagetop