i
i
――――バカなことをしている。


ノックをしたらすぐにドアが開いた。
「よ」
「……」
手に持っていたスマホを操作して、画面に表示していた部屋番号だけ書かれたメールをすぐさま消す。そうして突っ立っていると手を引かれ部屋の中へ入れられて、ドアが閉まる音を聞くより先に唇を塞がれた。
「――んっ」
ぼーっとされるがままだったが、呼吸が苦しくなって抗議する。
何気なく彼を見上げると、切なげな瞳と視線が交わった。ああ、反則だ――。
「…すげー会いたかった」
ぎゅ、と抱きしめられ、手からスマホがすり抜けて落ちた。


――アイドルは恋愛禁止、だなんて誰が最初に言ったんだか。

表ではにこにこと笑顔を振りまき、辛い顔なんか決して見せない。当たり前だ。プロなんだから。
実際の私は仏頂面が標準装備で、愛想のかけらもない。こんな私を知ったら、やはりファンは離れていくのだろうか。


すやすやと眠る横顔をそっと眺める。隣の男はどこから見ても整った顔立ちをしている。
ホテルでアイドル同士の密会。
そんな安い週刊誌の煽り文句が頭を過った。どこかで写真を撮られていたら、明日新聞の一面になっているかもしれない。ああでもそれならマネージャーから連絡が入るか。
< 1 / 2 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop