言うことを聞かない息吹に辟易しつつ、帰って来るまで落ち着きなくそわそわしている主さまの姿もまた胡蝶からしたら見たことのない光景だ。


そして石垣の塀の向こう側から息吹と雪男の笑い声が聞こえると、急にどすんと縁側に座って今までどっしり構えていましたと言わんばかりに腕を組んで瞳を閉じていた。

晴明は噴き出して肩を揺らして笑いを堪えていたが、息吹が戻って来て大量に買ってきた食材を台所に置くと、どっしりしている主さまの隣に座って顔を覗き込む。


「主さまお待たせ。待った?」


「……別に。茶が飲みたい」


「うん待ってて。あったかいのでいい?胡蝶さん、お茶を淹れたら客間をお掃除するからその後使って下さいね」


「…本当にいいの?私が居ては十六夜が安心できないんじゃないのかしら」


息吹は目を見張って主さまの着物の袖を引っ張って首を傾げた。


「そうなの?」


「…そうでもない。…掃除は俺も手伝う」


「ありがと。腕を奮いますから楽しみにしてて下さいね」


俄然張り切って腕まくりをした息吹の身体が心配で仕方のない主さまだったが、息吹がその心配を聞き入れてくれる風ではないので、転んだりしない限りはもう好きにさせることにした。

そしてようやく笑いが治まってきた晴明に煙管を投げつけてぼそりと呟く。


「出産はいつだ」


「夏になる頃だろう。出産まではまだまだ時間がかかる。その間にそなたは父となる準備をするのだ。明日早速巻物を持参する故、勉学に励むがよい」


見たことも無い主さまの一面が次々と暴露されていき、新鮮な気持ちになった胡蝶は息吹の提案を受け入れて素直になってみようと決めた。

…今までは毒を吐いて仏頂面にさせてそれを楽しんできたが――先程見せた小さな笑みは綺麗で一瞬見惚れそうになったほどだ。

あの笑みをまた見せてくれるのなら――


「…いつまで滞在していいのかしら」


「好きなだけ。せめて数日は息吹に纏わりつかれる覚悟をしておいた方がいい」


「…悪い気分ではなかったわ。……いい娘を見つけたわね」


一瞬主さまの目が丸くなり、その後ふわっと笑ったので、胡蝶もまたふんわりした気分になって同じような笑みを見せた。


「息吹の願いどおり、姉弟水入らずで話すのもよい。わだかまりを解して仲良き姉弟になれ」


「お前に指図されるいわれはないわね」


…憎まれ口は相変わらず。

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