目的を遂げた酒呑童子は、本堂から出て階をゆっくり降りると、木立の影から現れた人影に笑みを向けた。


「茨木か。俺はもう戻る。お前はいつものように…」


「椿姫を逃さぬよう見張りを続ければいいのですね?」


茨木と呼ばれた男は茨木童子と呼ばれる鬼の者で、白髪のような銀髪を短く刈り上げて、いかにも凶暴そうな吊り上った瞳の持ち主だった。

頭領の酒呑童子をこよなく尊敬し、彼に命じられれば命を投げ出してでも全うするほどの信奉者で、またその美貌で多くの女を焦がれ死にさせて悪鬼にさせることもある。


酒呑童子も茨木童子も、主さまと顔を合わせれば――辺りは血の海と化して、終わりがないのではないかと思うほどに長い戦いになる。

よって双方消耗戦になることは必至で、また負けが続いている酒呑童子は力を蓄えるべくここ数百年は幽玄町に近付いていなかった。


「そうだ。お前は椿姫を見張れ。どうせここから出ることは適わない。あの女は…捨てられた身分だからな」


「御意。酒呑童子様…少しだけ…少しだけ齧っても…」


何を、とは聞かなかった酒呑童子は、突然茨木童子の首を片手で締め上げて木の幹に叩き付けると、にたりと笑った。


「食いたいのか?駄目だな、あれは俺だけの食い物だ。齧ったとしたならすぐにわかる。そしてお前は俺に殺されることになる」


「よ…世迷言を申しました。申し訳ありません」


酒呑童子の左目に宿る狂気の光に恐れ戦いた茨木童子は、がたがたと身体を震わせて許しを乞う。


彼は…椿姫と出会って変わってしまった。

良くも悪くも変わってしまい、それでも魅力を損なうことはなかったが――椿姫のみを食うようになった酒呑童子はこの神社に足繁く箸を運ぶようになり、そして自分は見張りをする羽目に――


「じゃあ後を頼んだ」


「御意」


酒呑童子は本来定住しない。

あちこちに家を持ったり洞窟に住んだりして居場所を変えるのだが――今回は長い間、神社の近くにある一軒家に定住していた。


「あの方は変わってしまわれたが…こんなことであの百鬼夜行の主に勝てるのだろうか?……いや、今回こそは必ず…!」


決戦が近い気がする。

もちろん、その時に彼の傍で戦うのは、この茨木童子だ。

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