「晴明……あんた大丈夫かい…?息吹のために無茶するんじゃ…」


「今やらねばいつやるのだ。私は百鬼に加わっているわけでもなく、愛娘をろくでもない男に嫁がせた責がある。そなたには悪いが、十六夜は私が制裁を加える」


「主さまにだってきっと事情があるんだ。それをわかってあげとくれ。…あたしだって息吹は娘と同じなんだ。必ず主さまを見つけるんだよ」


「わかっているとも。ではまた後ほど」


口調は柔らかくとも、目は全く笑っていない。

晴明が本気を出すことなど滅多にないので、もしその本気が主さまに向けられるのであれば…ただでは済まないはずだ。

息吹を娘として想う気持ちに嘘偽りはなく、1ケ月も放置されて抜け殻のようになった息吹を傍で見ていた山姫も、内心は主さまを責めて責めて…やりきれない思いでいたのだ。


心配そうに玄関まで見送ってくれた山姫に手を振って牛車に乗り込んだ晴明は、扇子をいじりながらすでに精神集中を始めていた。

人の世界で生きてゆくと決めてからは、耳と尻尾を術で隠していたが――そのわずかな力でさえも惜しく、真っ白な尻尾と耳が現れる。

瞳は金色に輝き、元気な頃の息吹ならば興奮して毛が逆立つまで撫で回されたであろう長い尻尾はぴくりとも動かず、平安町の屋敷に着くとその姿のまま牛車から降りて足早に屋敷内へと入った。


「術式の準備を。これを使う」


水干姿の童子に主さまが普段使用していた濃紺の髪紐を手渡した晴明は、部屋の四隅に結界を作るための札を貼って誰も近づけないようにしてから中央に座して簡易の護摩壇に炎を燈した。

そうしながら術を唱えつつ、香を焚き染めた木札に難解な文字を描いて次々と護摩壇に投げ込んだ。

その度に炎の中から火の鳥や火の龍が踊り狂い、主さまの髪紐を護摩壇に投げた後、晴明の意識は身体から離れて宙を浮遊する。


「髪紐の持ち主の居場所を」


四神の力を借りる術を成功させた晴明は、護摩壇から伸びた光の道を辿って駆ける。


心のどこかでは、主さまを信じていた。

成人するまで育ててくれた恩もあるし、何より息吹に対する想いは真実だと信じていた。


「十六夜……息吹をこれ以上悲しませるな」


それが現実となるように何度も呟きながら、光の道の終着地点へと着く。


そして晴明が見たものは――

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