晴明が見たものは――着物の胸元が乱れて着崩れた態の主さまと、その傍らにしんなりと主さまの肩にしなだれかかっている美女。

しかもその美女は主さま以上に着崩れた格好をしていて、巫女服と思しきものはもはや着ているとは言い難い。


実体から抜け出た晴明は怒りを纏いながら本堂と思しき建物に侵入して主さまの傍らに立つ。

この術の弱点は会話が聞こえないことで、美女が何かしら主さまに話しかけては、主さまはほとんどといっていいほど口を開くことなく思い詰めた表情をしていた。


ただ晴明にとっては、主さまが浮気をしていようがしていまいが、もうどうでもいいこと。

1ケ月もの間行方をくらまして女と共にここで暮らしていたであろう主さまを連れ帰り――離縁させて、産まれてくる子も百鬼夜行を継がせるつもりもない。


晴明の身体から抑えがたい殺気が噴き出ると、何かを感じたのか終始伏し目がちな主さまが顔を上げた。


「十六夜……そなたには失望した。その女とどんな関係なのか知りたくもないが…どうにかして息吹の元へ帰ってくるのだったな」


主さまがきょろりと室内を見回す。

さすがは妖の頂点に立つ男というべきか――自身に向けられる殺気には敏感で、天叢雲を手に立ち上がろうとしたところを美女に腕を絡められて止められた。


「…私はこの光景を息吹にどう話せばいいのだ?そなたはそれを考えたことがあるか?どう言い訳をするつもりなのだ?」


つい声を詰まらせて絶句してしまった晴明は、決意を固めて身を翻そうとしたその時――主さまの唇が動いた。


『息吹』


…この期に及んで息吹の名を呼ぶ主さまに再び怒りが込み上げる。

主さまを引き止めている美女と息吹を天秤にかけるつもりなのか、それとも息吹を捨ててこの美女とここで暮らすつもりなのか――


「…そなたにはもう百鬼も息吹も要らぬと言うのだな?…残念なことだ」


場所は特定した。

後は実体に戻って銀に事情を話して…そして……



「十六夜…首を洗って待っているがいい。私がこの爪を振り上げる最初の犠牲者は、そなただ」


失意と失望が入り混じって唇を噛み締めた。


主さまはまた、息吹の名を呼んだ。


晴明は今度こそ身を翻して本堂を出て、その場を去った。

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